藤崎幸雄展

2007年4月15日(日)~5月12日(土)

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藤崎幸雄の不変

もう二十年以上制作が続いている〈杳容〉のシリーズは、いずれも独特の香気を放つ樟の原木に藤崎がチェーンソーを振るって、かたちを研ぎ澄ました作品群である。2006年の〈杳容XXI〉まで二十一を数えるシリーズがこれまでに発表され、様々な形状の作品が創られているが、いずれにも木の本来のかたちである“成り”を作品表面に外皮を残すことによって表すという藤崎の制作上の基準が貫かれている。ユーモラスなもの、シャープなもの、軽やかなもの、重量感のあるものと〈杳容〉のかたちはその都度様々であり、一見、素材が樟ということぐらいしか共通点を見出せそうにないのだが、よく見ると確かにどの作品にも樟の外皮が作品の周りを線状に走っていることに気づかされる。ひとつの制作基準を設定した上で、これほど豊富なバリエーションを生み出していることと、そしてその土台となる藤崎の樟との対話能力に、新作を観る度驚かされるのである。

〈杳容〉という言葉は “曖昧で不確かな精神的なるものが内在する物理的な器”という意味の藤崎による造語である。自然なかたち自体に既に魅力がある樟と、その時々の藤崎の造形欲との接点が〈杳容〉作品として結実していく。重いチェーンソーを振るうことによって現れてくる予期せぬかたちの発見や木肌の相貌の美しさ、懐かしい樟脳を思わせる芳香など、力作業の即興性が面白くて仕方がないと、以前に高知市北山の工房で語ってくれた藤崎にとって、上記の制作上の基準は作品素材となる樟原木への礼儀であり、作家としての自然に対する節度なのかもしれない。

複数の近作シリーズを一堂に観ることのできる貴重な機会である本展覧会は、個々の〈杳容〉作品の持つ造形表現の妙を味わえることはいうまでもなく、藤崎の揺るぎの無い作家としての姿勢を確認できる場になることだろう。私もこの会場において樟の香りに包まれながら、藤崎と樟の対話の過程を追体験してみたいと思っている。

松本教仁(高知県立美術館学芸員)